入力作業と表示作業の独立性の発見は,表計算ソフトの秘密を理解するのにも大いに役立ちます.

表計算ソフトのすごいところは,表の1カ所の値を書き換えると,その値が影響を与えるすべての欄(セル)の値を計算し直して,いつも,全体として矛盾のないようにしてくれることです.

自分で計算のやり直しをしないで済むのですから,初めて体験した時は,ひどく感動しました.皆さんはどうでしょうか.

これは表計算ソフトの再計算機能と呼ばれています.どこかの値を修正すると,関係するセルの値を計算し直すからです.

どんな手順でこういうことを実現したのか,は技術者の領分ですから私たちは立ち入りません.しかし,なぜこんなことができるのかと言えば,それは入力と表示の独立性によるのです.

表計算ソフトでは,表の各セルに関連するデータとして,ディスプレイに表示する「値」そのものの他に,その値の計算式や値の表示様式などもRAMに記憶しています.

表の各セルには番地が付けられています.表の各行には上から1から始まる通し番号が付けられ,各列には左から右へとAから始まるアルファベットが付されています.

セルの番地はこの列名と行番号から成ります.F5であれば,F列の上から5番目のセルという具合です.セルの値は利用者が入力しますから,セルの番地は,表計算ソフトにとっては,数式の中の「変数」のようなものです.その番地のセルの値を意味するからです.

セルに関するデータとしてRAMに記憶されている計算式は,そのセルの値を計算するために利用するセルの番地を変数にして記述されています.あるセルの値が変更された時,そのセルの番地を使う計算式を持つセルが,今変わったセルの値の影響を受けると判断できます.

 そのことに気づけば,再計算機能がなぜ実現できるのかの,あらすじを追うのはもう簡単ですね.