第1の必要条件は,どのようなデータがあれば,仕事の遂行に役立ち,仕事のスピードを上げたり,効果を高めたり,あるいは,成果を大きくできるのかが,判ることです.
パソコンはデータ処理をします.データはどのようにパソコンで処理しても,その結果はやはりデータです.データから価値ある情報を読みとるのは,利用者の仕事です(3.28参照).
要は,価値ある情報を読みとるのに,どのようなデータが欲しいのかを明確にできなければ,パソコンで処理するためのプログラムを開発することはできないということです.
これはなかなか難しいことです.なぜかというと,そのためには,あなたが欲しい情報を,明確にしなければならないからです.
本書では,パソコンの利用とはパソコンとの対話だということを強調してきました.効果的な対話をするためには,「何のために」を明確にする必要があります.処理した結果のデータから読みとりたい情報を明らかにすることは,まさに「何のために」を知ることです.
この必要条件を満たすためには,あなたの会社がどのような状況にあり,会社のビジネス環境や技術環境がどうなっているか,そして,あなたの任務は,何のために,何を,どうすることなのかを,整理しなければなりません.
言い換えれば,あなたが担当する仕事を整理して,なおかつ,そのためにどのような経営資源をどの程度まで使って良いのかを,知らなければなりません.
これは,専門の言葉で言えば,担当する仕事の上で解決・改善しなければならない問題状況をモデル化するということです.
モデル化とは問題を整理して記述することです.問題を具体的に,判りやすく整理するということは,良い答えに近づくことです.
例えば,中学生の数学では連立方程式を学びます.連立方程式を解く方法は,答えが自明になるように連立方程式を変形する方法です.ただ問題の記述の仕方を変えているだけなのです.
モデル化は,パソコンを使わない場合でも必要なことですが,多くの場合,私たちは自覚のないまま,あるいは,漠然とした感じを頼りに,経験的・習慣的に任務をこなしているのが実態です.ですから,仕事の内容ややり方をあらためて訊かれると,返事に困ることも多いのです.
整理しなくても何とかやってこれたとしても,整理は必要ないということを意味するわけではありません.一般に,仕事の内容を良く分析すれば,果たすべき任務とそれに役立つ情報,そして,そのような情報を読みとるのに適したデータを発見することできるものです.
なぜなら,連立方程式の例が示すように,良く述べられた問題は答えに近づいているものだからです.
このような分析を独力で行うのは,なかなか難しいものです.私たちは自分の置かれた状況を,私的な面はもちろん,公的な面でも,直感的に把握するだけで事足りることが多いからです.経験が不足しています.
しかし,ビジネス分析の専門知識がすでに相当程度に蓄積されており,それを専門とする技術者も育てられています.そうした知識や技術者の支援のもとでなら,難しくないはずです.